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札幌高等裁判所 昭和47年(う)214号 判決 1972年11月21日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は弁護人佐藤文彦提出の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、ここにこれを引用し、これに対しつぎのように判断する。

控訴趣意第一点法令適用の誤について。

論旨は、原判決は、法令の適用について、原判示第一の各戸別訪問及び各法定外文書領布の各所為を観念的競合として刑法五四条一項前段を適用し、これと判示第二ないし第五の威迫行為を併合罪として同法四七条本文により併合加重をしている。しかしながら、本件の各戸別訪問は包括一罪であり、これとその際になされた威迫行為は同じく観念的競合の関係にたつものと解すべきであるから、結局、本件各所為は同法五四条一項後段、一〇条により全部を一罪として、最も重い威迫罪の刑に従い処断すべきであるのに、原判決は戸別訪問につき包括一罪とせず、かつ、これと威迫罪とを併合罪の関係にあるとしているのは、判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤である、というのである。

よつて審按するに、まず原判示第一の戸別訪問と同第二ないし第五のいわゆる威迫行為の関係についてみると、原判示第五の威迫行為は、被告人が田端良雄、矢口優子に対し電話でこれをなしたものであり、原判示第一の戸別訪問の際になされたものでないこと原判文上明らかであるから、右第五の威迫行為と右第一の戸別訪問とが併合罪の関係になることは明白である。また右第二ないし第四の各威迫行為が右第一別表273639の各戸別訪問の際にそれぞれなされたことは所論のとおりであるが、右各戸別訪問とその際になされた各威迫行為の態様両者の罪質等にかんがみると、両罪は併合罪の関係にたつものと解するのが相当である。所論援用の最高裁判所昭和三六年五月二六日第二小法廷判決(刑集一五巻五号八七一頁)は、戸別訪問と事前運動並びに供与又は供与の申込に関するものであり、本件とは事案を異にし適切ではない。

<中略>

控訴趣意第二点量刑不当について。

論旨は、原判決の量刑が不当である、というのである。よつて審按するに、一件記録にあらわれた本件犯行の動機、罪質、規模、態様、ことに本件は、被告人が、昭和四六年六月二七日施行の参議院議員選挙に際し、その公正を率先して守るべき地方公務員の地位にありながら、原判示認定のとおり五〇回にものぼる戸別訪問、法定外文書領布、事前運動等をなしているほか、自己が北海道議員互助会理事等の地位にあるのを利用して、原判示の互助会指定業者に対し、その弱味につけこみ被告人の選挙運動に協力を求め、応じない場合には右指定を取り消しかねないことを暗にほのめかすなど威迫の方法が極めて卑劣であること、ならびに被告人の年令、性行、境遇、経歴、犯行後の情状等の諸事情に徴すれば、本件が被告人独自の立場でなされた犯行で組織的なものでないこと、禁錮以上の刑に処せられると必然的に地方公務員たる地位を失うこと、反省悔悟の情が認められること等所論指摘の被告人のため酌むべき有利な情状一切を十分斟酌し、かつ当審事実調の結果を考慮にいれても、原判決の量刑はまことにやむをえないものであつて、これが重きに失して不当であるとは認められない。論旨は理由がない。

よつて、刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(神田鉱三 横田安弘 宮崎英世)

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